能の構えと運び ・・・新陰流と能とは石舟斎の時代から関係があると言われています。
              以下は能の歩法について、「能の構造と技法」中「能の所作」よりの抜粋です。

 構えは静止という所作の基本であり、運びは行動という所作の基本である。いかに姿を美しく保ち、いかに訴えかけを強くするかということから、構えと運びが決定される。

 以下、基準とされる構えと運びについて述べる。(流派や個人による違いはこの範囲を超えることもある。)

1、構えの基本

 膝と腰と背骨と首筋を素直にまっすぐ伸ばす。ただし筋肉を突っ張るのではない。その姿勢のまま、体を前に傾ける。そのとき爪先に重心が移らないように、かかとを強く踏みしめる。これが構えの基本である。ただ静止しているのではなく、前へ強く引かれる力と後ろへ強く引き戻す力が腰を中心にして釣り合うことで、外見上の静止の形となるのである。上下の関係も同様で、古書によれば、頭の頂に紐を環で固定し、その紐を強く上へ引き上げられたつもりになり、その力に対抗して足を踏みしめるようにするとよいという。(喜多古能(ひきよし)「寿福抄」)
つまり、前後上下に強い力がかかっての静止であり、安定であるから、その力が観客への訴えかけとなって発散するのである。

2、運び

 運びはこの構えから出発する。構えたときの後ろへ引く力を抜けば当然前に倒れてしまう。倒れないためには、構えを崩すか、どちらかの足を前へ出すかしなければならない。こうして踏み出すのが運びの第一歩で、その連続で歩行を行うのである。歩行の間に構えが崩れることは無論よくない。左右動、上下動をすることなく、重い車を押し進めるように、安定した姿勢で歩行しなければならない。実際には前述の構えそのままで足を前へ出すと、腰がわずかに下がり、次の足を引きつけると、また腰が元の高さまであがる。この繰り返しでは体が上下に波打つから、それを避けるために、膝をわずかに曲げることで調節するのだが、歩き出すときに曲げるか、構えたときに曲げておくか、またどの程度曲げるかなどは個人々々の工夫によって違いがある。
 運びは上記のような力関係で行うものだから、歩行が進むにつれて自然に加速がつく。これをノリがつくと言う。むろん、演技としてノリを抑えて歩くことは可能で、そうしなければならないことも多い。
・・・略・・・
 運びの間の上下の力関係は、構えのままだから、足の裏全体で床を踏みしめている。踏みしめたそのままで前進すると、足を切り替えるときに、前に出したほうの足に無理な力がかかって止まる。それを避けるには、出した足の爪先をわずかに上げて逆の足の動きに移れば良い。この動作は、爪先を上げるというよりも、自然に上がるというくらいの感じである。能の擦り足は爪先を上げるものと思っている人があるが、上げるのが様式なのではなく、滑らかな運びをするための便法と考えた方が良い。したがって、人それぞれの構えに応じて、ほとんど爪先の上がらない人もあるが、すこしも、差し支えないのである。
 構えや運びのような基本的技法も、個人の体格により、また扮した人物の役柄により、大幅な違いがある。ここにはその基本的な原理だけを述べたことを、重ね注意しておく。



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